ハイスピード・ドライバの構造について

ハイスピード・ドライバの基本構造は、以下のように、シンプルなものです。

ハイスピードドライバの外観

先端部・軸・柄などからなるドライバ体に、回転自在にグリップが取り付けられている構造です。
ドライバ体には、前方・後方の早回し部が設けられ、早回し用のグリップ(把持部)は突出部を持ちます。

試作例では、前方早回し部は、先端ビット用ホルダを兼ねており、各種ドライバビット・六角軸ビットが交換可能となっています。

 

試作例では、軸とグリップは、ボールベアリング(ミネベアDDL-1470HH)を介して取り付けられています。
CGですが、内部はおおむね下図のような形になります。

 

ハイスピードドライバの構造

ベアリングを介することにより、回転が高速円滑になり、柄のフライホイール効果も効いて操作感が軽快になります。

なお、試作例では、グリップの貫通穴の内径は、後方は14mm(ベアリングの外径)ですが、前方付近は、早回し部(ホルダ)の外径に近い、約12mmとなっています。
回転するものは、軸ぶれなどのぼろが目立ちやすく、市販の材料・素材を加工しつつ、一応の精度を満たす物を作るためには、それなりの工夫と苦労がありました。

 


 

試作例では、各部を接着(エポキシ系あるいは瞬着)で結合しています。一体として回転するドライバ体は、一体的な構造とするなど、もっと強度があるのが望ましいと思います。

また、ベアリングも接着による取り付けですが、メンテナンス性からは、ドライバを分解可能な構造にして、ベアリングの洗浄・交換が可能であれば理想的です。

 

ハイスピード・ドライバのグリップとその形状について

ハイスピードドライバ(HSD)の最大の特徴は、ドライバ中央部に設けられたグリップ(早回し用把持部)と、その非対称の突出形状にあります。

ハイスピードドライバのグリップ部材

上掲画像右側は、整形を終わった段階の部材、左側は、ベアリング接着用の作業穴を開けた段階のものです。

ドライバの構想の初期段階では、同軸状(同心円状)のグリップ形状で試作していたのですが、いずれもドライバ軸(早回し部)を回しにくい、という本質的欠陥を持っていました。あるとき、グリップを突出形状を持つ非対称形のものにしてみると、格段に回しやすくなりました。

この非対称の突出が、早回しポジションにおいて、ドライバを自然に把持しつつ、早回し部の操作を容易にして、ドライバ軸の著しい高回転を可能にします。

ハイスピードドライバの順手による早回し操作

上掲画像のように、突出部を手のひらの中指付近(厳密性は要しません)に当てて把持することにより、親指・人差し指の付け根がドライバ軸から適度に遠ざけられ、親指・人差し指の動きに自由度(ゆとり)が生じます。その結果、早回し部の操作が円滑容易になり、無理のない動作で、ドライバ軸の高速回転が可能になります。

グリップに突出部がないと、指とドライバ軸が接近しすぎて、早回し動作が非常に窮屈になります。

他方、同心円状に膨らんだ形状にすると、グリップが太くなりすぎてドライバの把持が困難です。

一方向にのみ顕著な突出を持つグリップ形状が、ドライバの自然で柔軟な把持を可能にしつつ、手指の自由な動きを可能にし、ドライバ軸の高速回転を生み出します。

また、グリップを把持する早回しのポジションにおいて、柄はフリーの状態なので、これがフライホイールとなって高速回転が持続し、一ひねりで大きな回転量を得ることができます。


このグリップを逆向きに把持すると、逆手持ち(リバースポジション)によるドライバ操作が可能になります。

ハイスピードドライバのリバースポジションによる早回し操作

リバースポジション操作ができることで、さまざまな状況のネジへのアクセス性能が飛躍的に高まることは前出のとおりです。


また、柄を握った本締めポジションにおいて、親指、人差し指の先端をグリップにかけることにより、柄から手を離してポジションを戻すことができるため、ラチェットドライバのような反復動作によるドライバ操作が可能になります。

ハイスピードドライバの、ラチェットドライバ的な反復動作による操作

上掲画像は、HSD詳説4  ~その他実演集~ の、「小型メカ・ロボット系部材への適用」の動画(HighSpeed Driver 12)からのキャプチャです。

この操作は、適用できる場面が多く、ドライバの軽快な操作性を高めます。

反復動作でのドライバ操作により、片手のみでのネジの締め/弛めが簡便かつ安定した操作で可能になります。


また、グリップは、回転運動するドライバ軸に対して、相対的に「動かない」場所ですので、末端部にストラップホールを設けるなどして、ストラップやワイヤを取り付け可能とすることができます。ワイヤ等の装着により、高所での作業などにおいて、ドライバ本体の落下防止を図ることができます。

ハイスピードドライバに落下防止用ワイヤを装着した例

 


このように、ドライバ中央部に、突出形状を持つ非対称形のグリップを設けることで、いくつもの効果が生じ、従来のドライバにはない多彩な利便性をもたらします。

デザイン的にも、戦闘機のノーズのようなイメージもあり、なかなか面白いと思います。

詳しくは、ハイスピード・ドライバの詳説ページ(HSD詳説1以下)を動画共々ご参照いただければ幸いです。

ハイスピード・ドライバの高いアクセス性能について

ハイスピードドライバ(HSD)は、さまざまな把持と操作の方法が可能です。順手(ノーマルポジション)・逆手(リバースポジション)操作を駆使することで、従来のドライバでは作業が困難であった状況でも、無理なくしかも迅速・軽快に作業ができるようになります。

下は、リバースポジション操作によるドライバ操作例です。
場所的な制約から、作業者がネジに正対できないような状況でも、腕とドライバを入れることができれば、ネジの操作が可能で、さらに早回しも効きます。

ハイスピードドライバの高いアクセス性能:リバースポジション操作

ドライバ操作の動画(HighSpeed Driver  17)を HSD詳説1  ~高速性と柔軟性~ の、「様々なネジの状況に対する高いアクセス性能」の項にアップいたしました。

本ドライバの柔軟性と、さまざまなネジの状況に対するアクセス性能の高さを示す例として、ご参照いただければ幸いです。

コインで回す

時々、「コインで回してください」というネジに出くわすことがあります。

コインとは何か? 普通には硬貨を使用、ということなのでしょうが、こういったネジが出てくるたびに、硬貨を探してくるのも芸がなく、使い勝手もよくありません。また硬貨を傷つけてはいけない、という決まりもあります。

そこで、ハイスピード・ドライバに装着して使えるように、コイン型先端工具を自作してみました。

加工の元となったのは、ソケットレンチやラチェットレンチに使うソケットを、六角軸に変換するソケットアダプターといわれる工具です。

12.7mmSq→6.35mm変換ソケットアダプターを研削してコイン状の形を削り出し、表面を磨いて形にしました。

コインの代用としては上々で、ハイスピード・ドライバとのコンビで早回しも効くので使い勝手はよいです。形もまずまず決まっていると思います。
私が使う範囲では、著しいトルクが必要な場面でもないので、問題なく使えています。


私がこれを自作したころは、コイン代用の先端工具はなかったという認識で、そもそもコインネジはマイナーな存在でいずれ消滅していく、と思っていました。しかし最近検索してみると、コインドライバはもとよりコインドライバ先端工具まで市販されています。

意外にいろいろな場面で、コインあるいはコイン状ドライバで回すネジ、というものがあって、コインドライバにも需要があるようです。

動画中の自作先端工具

極端な閉所への対応、として閉所用ホルダをご紹介していますが、その中で、プラスネジ用の極短先端ビットをピンセットで装着しているシーンがあります。

これがその先端ビットです。

ご覧のように、市販のプラス(No.2)用先端ビットを、六角部分がかろうじて残る程度まで削り落として短くしています。

ホルダには磁力で吸い付くので、ホルダからはずす際は、ピンセットで摘み外します。


また、円管内面のバリ取り、として、極短サイズのドリルビットが登場しています。

ドリルそのものを6角シャンクに加工することは不可能なので、プラスネジ用の短い先端ビットを平らにかつ短く加工した上で、ドリルビットのほぼ先端部だけ残したものをエポキシで接着しています。

強い負荷には耐えられそうになり造りですが、管の内側の面取りをするというアイデアが成立しているかどうかの実証実験には使えています。